マイナーなスープ・アラバシュスープを作ってみた。
コンヤ滞在中によく、郷土料理の名前の中にアラバシュというスープの名を聞くことがある。実際カイセリやヨズガットなど内陸のアナトリア地域で同じ名前を聞いたことがあることから、その地域を広く包括する地域のスープと言える。中央アナトリアでは野生の鳥や動物を狩る習慣が多く所謂冬の季節の猟師のスープなのだという話を聞いた。
現在は、そういう肉を確保することが難しくなったため、庶民が簡単に作るには鶏の肉を使うようだ。
私はアナトリア地方のコンヤでそのアラバシュを食べた。まず、知人が鶏肉で作り方を教えてくれた。
そして作り方を習った数日後、望んでいた連絡が入った。知人の知人が狩りでウサギを獲ったとのことで、是非今度は僕がその肉を使って、アラバシュスープを作ってほしいというものだった。
ウサギの肉は人生でも初めて扱うが、脂肪がなく筋肉質。肉全体も真っ赤で、鉄分が多いのかレバーのような肉質だった。水に多めの塩を入れて血抜きしてから翌日スープを作ることにした。
このスープは自分一人で食べるものではなく、2,3人でもない。5,6人でお盆を囲んで食べるというのが通例。なので、その人数を確保するためにその人数だけ前もって招待したのだ。
同じ要領で作り、我ながら生地もスープの加減もいい仕上がりだった。冬の時期に1か月に1度食べればよいというスープを日本人が作って招待したということを知って、お客さんは驚いていた。
日本でいえばイノシシ汁を作ってもてなした感じだろう。
そもそも、男性陣が冬の時期狩りから帰り、女性にその肉でスープを作ってもらい、男性が仲間同士で囲んで、冷えた体を温めながら狩りの話で盛り上がるものだったそうだ。
大勢で食べて、中に唐辛子を多く入れて辛くしてから食べる。食べる時には生地を喉に流し込む時に、ごくっと音が出る程勢いよく飲み込む。器に入れたスープはアツアツを何倍もお変わりする。などとまさに男の食事そのもの。
でもここで、注意しなければならない決まり事がある。スプーンで生地をすくって、スープに浸す際に生地が滑って器の中に落ちてしまったら、粗相。周りの者から、「次にアラバシュを作ってもてなすのはお前の番だ」と言われるのだ。
勿論冗談だが、一般的なペナルティー話として知られている。
男6人で鍋をつつき合う様に、アラバシュを食べる。一斉に勢いよくスプーンで手を伸ばす光景は、日本の鍋で一斉に箸が伸びるものと同じだ。
人数が一人でも多ければ、味を共感する人数も増える。一人分の量が少なくなっても、分かち合う人数が増えればより豊かになる。
一つの食事を大勢で囲みながら食べるというのは、美味しさは勿論、食を頂いたという感謝や豊かさを共感できる。こういう食事が機会を与えてくれると言っていい。