トルコ料理紀行 ~全土制覇へ!食探求の旅~

トルコ料理を紐解く旅に出かけた。トルコ中をくまなく旅し、食べまくり、触れ合いのなかでトルコの食を探し求めていく。

トルコの冬の保存食・エリシテ(乾燥麺)作りに遭遇

 

8月下旬、トルコのアジア側で内陸部に位置し、トルコのへそと言われるコンヤと言う県のベイシェヒールと言う町に立ち寄った。

湖畔に位置するこの地には、世界遺産に登録リストに入っている、歴史のある木造のイスラム寺院がある。

その周りの地区は、この地域で初めて集落が出来た最も古い地区とされ、現在は保存区域とされている。昔ながらの古びた家々が、それぞれ肩を寄せ合ってるかのように立ち並んでいる。

私は昼時にその地域を散策しながら、とある家の前を通りかかると、風に揺れる白いカーテンの向こうから女性達のにぎやかな声が聞こえてきた。ひょっとして何かを作っているのだろうか?そこで尋ねてみたら「今、冬用の手打ち麺を作ってるのよ!」との答えが返ってきた。そして少し拝見させてもらおうと、家の中に入れていただいた。

 すると、5人の女性達が床に腰を下ろして、各自の仕事をこなしていた。その仕事はそれぞれが連携している流れ作業であった。麺の生地はすでに打ってあり、それを麺棒で平らに延ばす人、パスタ用の機械で細く切る人、2センチ平方の四角に切る人、切った麺を別の部屋に持っていき、乾燥させる人がいた。

  

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 話を伺うと、どうやら姉妹と近所の人たちとの共同作業で、持ち回りで順番に手伝いに来ているのだと言う。「今日は私の家の麺を作るけど、次は近所の家のだから、私が手伝いに出かけるわ。」「冬の保存食はたくさん種類があるから、一つずつ順番に終わらせるのよ。」

 

 トルコの中でも特に内陸は乾燥して暑いので、秋に入るこの季節には、冬支度の一つとして手打ち麺を作り乾燥させて保存する。これを冬の時期にスープに加えたり、茹でたものにヨーグルトをかけて食べたり、バターで炒めたりして食べるそうだ。

 そもそも小麦生産に適した乾燥した気候と土壌があり、主食でもあるパンをはじめとし、小麦を生かした料理も数多い。まさにトルコの食文化の基礎となる食文化である。

 今日スーパーでは既製品の乾燥麺が売られている時代だが、まだまだ村では、このように手作りの手打ち麺が主流。

 手作りの美味しさも勿論だが、トルコの乾燥に適した天候をうまく利用した乾燥麺の食材は経済的にも家庭の助けになるからだ。

 冬を越す程作るには多くの量を作らなければならず、その為には流れ作業のための人手が必要となる。そこでイメジェと呼ばれる共同作業があり、身近な人と助け合うという背景が存在する。人が集まれば料理についての話で盛り上がるだろうし、またそういう話が食文化をより豊かにすると同時に、力を共有する事で地区に住む人との絆が築かれていくのだろうと感じた。

 日本にはここまで身近な助け合いの文化をほとんど見る事が出来ないが、両親が幼い事には“ゆい”または、“呼び戻し”と呼ばれる助け合い制度があったそうだ。特に田植えの時期には、近所同士で順番に手伝うと言うものだそうだ。

 

 日本ではごく少なくなってきたその助け合いも、トルコでは今でもごく普通にこのような助け合いが行われているため、まだまだ近所付き合いや助け合い精神も根強く続いている。ごく当たり前に行われているからこそ、時代の移り変わり、私たちが失ったもの、日本との違いを考えさせられた。

 冬の保存食作りという大事な時期だけど、おしゃべりしながら和気あいあいとした彼女らの時間は、客観的に見るだけでも何か羨ましく思えてしまう。