世界無形文化遺産のケシケキについて
2011年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されたトルコ料理のケシケキという食べものについて、少しばかりの解説を。
ケシケキは麦粥と言える食べ物で、トルコの多くの地域で食べられるものです。 そもそもはケシケキは遥か昔から、今のトルコに住んでいたアルメニア人や他民族のキリスト教徒を含め、宗教的や特別な日に食べられていました。現在登録されたのは主にエーゲ地方で伝統として残っているケシケキとなっています。どちらの食べ物といういい方は出来ませんが、トルコ人もアルメニア人もお互いかなり長い間共存し、影響しながら今日まで伝統を引き継いで来れたわけです。
この食べ物は挽き割り小麦と牛や羊の肉を一緒に煮込んでいきます。(地域によっては鶏、ガチョウなど) まず作る前に小麦の準備がありますが、親族や村の女性たちが大勢集まって、歌を歌いながら小麦を洗い、乾燥させます。
次の段階で、石臼の中に洗って乾燥させた小麦を入れて、大きな杵のようなもので数人が順番に叩きながら、小麦の皮を取り、挽く作業をします。力仕事になるので、ここでは男性陣が集まります。
皮を取り除き、ケシケキ用の挽き割り小麦(ヤルマ)を選別します。その後挽き割り小麦と肉、骨、水を何百人用の大鍋に入れ、味を女性が決めます。 粘りが出始めると骨を出します。再び男性陣が呼ばれケシケキ専用の道具を用いて、突きながら粘り気を更に出していきます。
その際はラッパや太鼓のリズムに合わせながら、息を合わせていくのです。その周りでは踊りをする人たちも大勢います。
じっくり火を入れながら一晩かけて作り上げるものです。そうすることで、肉がすり潰され繊維状のものが粘った小麦にからまっています。肉から出た旨みをしっかり感じます。麦粥といってもいい、ずっしりとした腹もちのいい料理です。
そのうえにはバターに赤唐辛子、またはトマトペーストを溶かした香味油を上からかけて頂きます。
食べる前にはお祈りをして、それをみんなで分かち合いながら食べます。
日本で言うとまさに年末の餅つきの行事に似ていますが、それ以上に作り方、料理方法、分業、共同作業、音楽、祈り、伝統などがそのイベントにすべて含まれているから、選ばれたのだと思います。それによって、社会的な結びつきが強まりますし、伝統が続いて行くわけです。ケシケキを通じて、人々の繋がりを強く感じるので、それを象徴している食べ物とも言えると思います。
見た目だけでは、これが世界無形文化遺産?って思われがちですが、その背景には長い過程や要素が複雑に絡みあっている総合フードとも言えます。
一つの食事にもこれだけの要素が関わって食べられるというのは、幸せで豊かな料理なんだなーーって思いますねーー。
ただ一つの料理と言う訳ではなく、その背景には集まった人々の心が結集された食べ物です。
そう思うと、選ばれたのも当然かなとも思いますね。
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